あの鼻との問答それ自体からわかるように、あいつには少しも神妙なところがないから、今度も先刻と同じ調子で、こんな男とは一面識もないと言い切って、まんまと誤魔化してしまうに違いないからである。そういう訳でコワリョーフは、安寧の府たる警察署へ行くように、馭者に言いつけるばかりになっていたのであるが、急に考えが変って、あのペテン師の悪党野郎はすでに初対面の時からして、あんな図々しい態度をとったほどであるから、いい潮時を見て、まんまと都落ちをしてしまうかもしれない。もしそうなったら、あらゆる捜査も水の泡だ、水の泡でないまでも、まる一ヵ月は長びくだろう、それでは堪《たま》らんと彼は思ったが、やがて天から彼に名案が授けられたようである。これはひとつ、真直ぐに新聞社へ駆けつけて、いち早く、彼奴《きやつ》の特徴を詳細に書いた広告を出すことにしようと肚をきめたのである。そうすれば、誰でも彼奴を見つけ次第、さっそく彼のところへ突き出してくれるなり、少なくとも奴の在所を知らせてくれるに違いない。そう決心すると、彼は馬車屋に、新聞社へ行けと命じて、途中も絶えず「こら、もっと早くやれ! 畜生、もっと急ぐんだ!」と
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