。眼からは涙がにじみ出した。そこで彼は、くだんの紳士に向かって、お前は五等官の贋物だ、お前はペテン師で悪党だ、お前は俺の鼻以外の何者でもないのだと、単刀直入に言ってやろうと心を取り直した……。が、鼻はもう、そこにはいなかった。また誰かのところへ挨拶をしに、まんまと擦りぬけて行ってしまったのだろう。
コワリョーフは会堂の外へ出た。ちょうど好い時刻で、陽はさんさんとして輝いており、ネフスキイ通りは黒山のような人出であった。婦人連も、まるで洪水のように押し流されている。……
おや、彼の知り合いの七等官がやって来る。コワリョーフはこの男のことを中佐中佐と呼んでいた。殊に局外者の前でそう呼んだものである。あ、向こうにカルイジキンの姿も見える。これは大審院の一係長で、彼とは大の親友だが、ボストン・カルタを八人でやると、いつも負けてばかりいる男だ。おや、あすこから、コーカサスで八等官にありついた、もう一人の少佐が、こちらへ手を振っておいでおいでをやっている……。
【ちぇっ、くそ喰えだ!】コワリョーフはこう呟いてから、「おい、辻馬車! まっすぐに警察部長のところへやれ!」
コワリョーフは馬車に乗
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