から気持のよい婦人の衣《きぬ》ずれの音が聞えて来た。かなり大柄な全身にレースの飾りをつけた、どこかゴチック建築に似たところのある中年の貴婦人が入って来た。それと一緒に、すらりとした姿に大変よく似合った服をつけ、カステーラ菓子みたいにふんわりした卵色のボンネットをかぶった、華奢《きゃしゃ》な娘がやって来た。二人の後では、大きな頬髯をたくわえて、カラーを一ダースもつけていそうな、背の高い紳士が立ちどまって、やおら嗅ぎ煙草入の蓋をあけた。
コワリョーフはつかつかと進み寄って、胸衣の、バチスト麻のカラーを摘み出して形をととのえ、時計につけていた印形《いんぎょう》を直すと、あたりへ微笑をふりまきながら、そのなよなよしい娘の方へじっと注意を凝らした。娘は春さく花のように、わずかに頭を下げると、半ば透きとおるような指をした色の白い手を額《ひたい》へ持っていった。そのボンネットのかげから、娘の頤《あご》の端と頬の一部を見て取ると、コワリョーフの顔の微笑はさらに大きく拡がった。が、その途端に、まるで火傷でもしたように彼は後へ跳び退いた。自分の顔の鼻の位置がまるで空地になっていることを想い出したのである
前へ
次へ
全58ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング