でおろした。「わつしは、一と目でお前さんが歴乎とした哥薩克で、決して意気地なしでねえことを見抜きましたわい。そうら見なされ! この酒場からほんの僅かゆくと、道が右手へをれて森の中へ入つてをる。野原がうつすら暗くなる頃、仕度をととのへて出かけなさるのぢや。あの森の中にはジプシイが住んでをつて、妖女《ウェーヂマ》が火掻棒に跨がつて空を翔けまはるやうな晩に限つて、巣窟《あな》から出てきて、鉄を煉《う》つのぢや。だが、そのジプシイ共が実際どんな生業《しやうばい》をしてをるのか、そんなことは知らなくともよい。森の中でやたらにトンカントンカンと音がする筈ぢやが、その音の聞えて来る方角へは行かぬことぢや。そのうちに焼け残りの立木のそばを過《よ》ぎる小径へひよつこり出るから、その小径についてずんずん先きへゆきなされ……。さうすると、やたらに茨の棘《とげ》がひつかかり出して、道は深い榛《はしばみ》の叢みの中へはいるが、それでもかまはず、さきへさきへと行かつしやれ。すると小さな小川の縁へ出るだから、そこで初めて足をとめなさるのぢや。用のある相手にそこで会はつしやるぢやらう。それから衣嚢《かくし》の中から、
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