今どきのそれとは、てんで較べものにもなんにもなつたものぢやない。のうのうと手足を伸ばしたり、*ゴルリッツアやゴパックを踊るなどといふ訳にいかなかつたのは勿論のこと、頭へ酔がのぼつて、足が自然に手習ひをしはじめても、横になつて休む場所もないといふ始末だつた。内庭は荷馬車が一杯で、立錐の余地もなく、納屋のわきや、秣槽《まぐさをけ》のなかや、玄関などには、からだをくの字型に曲げたり、ふんぞり返つたりした、いぎたない連中が、まるで蟒《うはばみ》のやうな大鼾をかいてゐた。ひとり酒場の亭主だけは油燈《カガニェツツ》の前で、荷馬車ひきどもが酒を何升何合飲み乾したかといふ目標《めじるし》を棒切れに刻みつけてゐた。祖父は三人前として二升ばかり酒を注文して、納屋へ陣取つたものだ。三人は並んで、ごろりと横になつた。祖父がふと振りかへつて見ると、二人の仲間はもう死んだやうにぐつすり寐こんでゐる。祖父はいつしよに泊つた、くだんのもう一人の哥薩克を起して、さつきザポロージェ人と約束したことを思ひ出させた。その男は半身を起して眼を擦《こす》つただけで再び寐こんでしまつた。どうも仕方がない。一人きりで見張りをしなけれ
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