ばならぬことになつた。どうにかして眠気を払ひのけようものと、祖父は荷馬車を片つぱしから残らず見て※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つたり、馬のところへ行つて見たり、煙草を燻らしたりしてから、再びもとのところへ戻つて、仲間の傍らに坐りこんだ。あたりはしいんと静まりかへつて、蠅の羽音ひとつ聞えぬ。ふと彼の眼には、すぐ隣りの荷馬車の蔭から何か灰色のものが角を出したやうに思はれた……。それと同時に、両の眼がひとりでに細くなつて今にも閉ざされさうになる。それで彼はひつきりなしに、拳しで眼をこすつたり、飲みあましの火酒《ウォツカ》を眼にさしたりしなければならなかつた。しかし、少し眼がはつきりして来るとともに、変化《へんげ》の影は消え失せた。ところが、又しばらくすると、荷馬車の蔭から妖怪が姿を現はす……。祖父は根かぎり眼を瞠《みは》つてゐたが、呪はしい睡魔が、執念く彼の眼の前の物象《もの》を曇らせてしまつた。両手のおぼえがなくなり、首ががつくり前へさがると、激しい睡気に襲はれた彼は、まるで正体もなく、その場へぶつ倒れてしまつた。長いあひだ祖父はぐつすり寐込んでゐた。その坊主頭にじかじかと朝日
前へ
次へ
全34ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング