張り番をして呉れないか! 生涯、恩に著るだよ!」
どうして、そのやうな不仕合せな人間を助けずにおかれよう? 祖父は、万に一つでも自分の基督教徒としての魂を悪魔の鼻づらに嗅がせるやうなことがあつたなら、この脳天の*房髪《チューブ》を斬り取られても文句はないと、きつぱり言ひ放つた。
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房髪《チューブ》 脳天に剃り残した一つまみの房毛で、カザックの標章としたもの。
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哥薩克の一行はもつと先きへ進む筈であつたが、空が一面に黒い幕ででも蔽はれたやうな真暗な夜となり、野原はまるで羊皮の外套でも頭からすつぽり被せられたやうな真の闇に塞されてしまつた。やつと遠くの方に一つ小さな灯影がかすかに見え出すと、馬どもは畜舎の近づいたのを感づいてか、耳を立てて暗やみに眼を瞠りながら道を急ぎだした。灯影が一行を迎へにこちらへ近づいて来るやうにさへ思はれた。やがて哥薩克たちの眼前に一軒の酒場が現はれたが、それはまるで、招ばれて行つた賑やかな洗礼祝ひから戻らうとしてゐる百姓女の恰好よろしく、今にも一方へ倒れさうになつてゐた。その時分の酒場と来ては、
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