ると言ひ伝へられる迷信的な存在。
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さて、ものの百年も前には、死んだ祖父《ぢぢい》の話では、こんな村など、誰ひとり知つてゐる者は無かつたさうぢや。村とはいふものの、途方もなく惨めな部落だつたので! 素地《きぢ》のままで何も塗つてない丸太小屋が十軒ほど、そこここと原つぱのまんなかに剥き出しに突つ立つてゐたきりぢや。垣根もなければ、家畜や荷馬車を置くほどの、ろくろく満足な納屋ひとつない有様でな。それでもまだまだ贅沢な方で、こちとらのやうな裸か虫にいたつては、地面《ぢべた》を掘りさげた土窖《つちむろ》――それが人の住ひなのぢや! ただ立ちのぼる煙を見て、そこにも神の子の住んでゐることが頷かれるといつたていたらく。どうして又そんな生活《くらし》をしてゐたのぢやと言ひなさるのかな? 貧乏のためかといふに、なかなか、貧乏どころぢやない。なんしろその頃といへば、猫や杓子までがわれもわれもと哥薩克になつて、他所《よそ》の国々へ押し渡つて夥しい財宝を掠め取つてゐた時代でな、どちらかといへば、安住の家などを営む必要が更々なかつたからぢや。当時は、クリミヤ人でござれ、波蘭人《リャフ
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