怪異物語の方にわたしたちはずつと牽きつけられたものぢや。さういふ妖怪変化の話を聴くと、いつも躯《からだ》ぢゆうがぞみぞみして、身の毛もよだつ思ひだつた。さもなければ、さうした怪談の怖さがたたつて日の暮れあひからは、眼にうつるものが皆、あやしげな化生のものの姿に見えたものぢや。どうかした拍子で夜分、うちを空けでもすることがあると、必らずそのあひだにあの世から迷つて来た亡者がわが寝床にもぐりこんでゐはせぬかと、無性に気づかはれてならなんだ。いや、まつたくの話が、自分の寝台の枕もとにおいてある長上衣《スヰートカ》を遠くから見て、てつきり悪魔がうづくまつてゐるのぢやないかと思つたことも再々のことでな、それが嘘なら、こんな話を二度と聞かせるをりのない方がましなくらゐぢや。祖父の物語でいちばん肝腎要《かんじんかなめ》なところは、祖父が生涯に一度も嘘をつかなかつたといふ点で、祖父が物語るかぎり、それはまさしくこの世にあつた正真正銘まことの話に違ひなかつたのぢや。
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ザポロージェ人 ドニェープルの急流にある島嶼をザポロージェと言ひ、そこにカザック軍の本営(セー
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