えだ。』さう彼等は異口同音に言ふのだつた。『正教徒をたぶらかす悪魔からでなくて、どこからあんな富がころげこんで来るものか。いつたいどこからあの山のやうな金貨を手に入れたのだらう? それに、なんだつてあの男が金持になつたと同じ日に、不意にバサウリュークの姿が消えて無くなつたんだらう?』どうも人の臆測といふものは馬鹿にならんものでな! 一と月とたたぬうちにペトゥルーシャはまるで人間が変つてしまつた。いつたい彼はどうしたといふのか――さつぱり訳がわからん。同じところに坐つたまま、一と言も人とは口をきかず、しよつちゆう物思ひに耽つて、何事かを一心に思ひ出さうと骨折つてゐるらしいのぢや。どうかしたはずみに、ピドールカがやつと口をあかせると、妙にきよとんとしながらも、すこしは話もして、気分もいくらか晴れるやうなのぢやが、ふと、くだんの袋を見ると、『待て待て、どうも思ひ出せんわい!』さう口ばしつて、またもや深い物思ひに沈んで、再び何事かを思ひ出さうと一心不乱になるのぢや。時々じつと、長いあひだひとつ場所《ところ》に坐つてゐると、いかにも何もかもが初めから脳裡《あたま》に浮かびあがつて来さうな気がする
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