のぢや……が、やはりまたぼうつとしてしまふのぢや。どうやら、自分は居酒屋に坐つてゐるらしく、火酒《ウォツカ》が運ばれて来る、火酒《ウォツカ》が舌に焼けつく、火酒《ウォツカ》はとても厭だ、誰かそばへ近よつて来て肩を叩く、その男が……しかし、それから先きはまるで眼のまへに霧がかかつたやうで、とんと思ひ出せぬ。汗が顔からたらたら流れる、彼はぐつたりして、その場に居竦まつてしまふのだつた。
ピドールカはありとあらゆる手段《てだて》をつくした。修験者に相談したり、★怯え落しや癪おさへの呪術《まじなひ》もしてみたが――しかし、なんの験《しるし》もなかつた。
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★ わたしの地方では人が悸病《おびえ》にかかつた時、その原因を知るために『怯え落し』をやる――それには先づ錫か蝋を溶かして水の中へ流しこむのだ。するとそれが病人を怯えさせてゐるものの姿に似た形を現はす、それで怯えはすつかり落ちてしまふのぢや。『癪おさへ』といふのは吐気《むかつき》や腹痛の時にやるもので、それには大麻の切れはしに火をつけてコップのなかへ入れ、それをば病人の腹のうへに水を盛つて載せた鉢の
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