ちにふざけた馬鹿な真似がおつぱじまる……いやもう、とても堪つたものぢやない! 亡くなつた祖父の叔母は、この婚礼の席に列なつて、とても滑稽な一幕を演じてしまつたものぢや。叔母はその時、なんでも韃靼風のだぶだぶした衣裳をつけて、酒杯《さかづき》を持ちまはつて一同に酒をすすめてゐたさうぢや。すると一人の男が悪魔にでもそそのかされたのか、うしろから叔母のからだへ火酒《ウォツカ》をぶつかけをつたのぢや。するともう一人の別の男が待つてゐたといはんばかりに、即座に火を燧つてそれに点けをつた……。火焔がぱつと燃えあがつた。可哀さうに、叔母はすつかり仰天してしまひ、満座のなかで着物をのこらずかなぐりすてた……。まるで市場のやうに、わつといふざわめきと、哄笑と、馬鹿さわぎが持ちあがつた始末さ。一と口に言へば、どんな老人《としより》も未だ曾てこれほど愉快な婚礼には出会つたためしがないといふほどぢやつた。
ピドールカとペトゥルーシャとは、まるで殿様と奥方のやうな暮しをはじめた。なに不自由なく、万事につけてきらびやかに……。しかし堅気な人たちは二人の暮しを眺めて、かすかに首をふつた。『悪魔から福は来るものでね
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