何の代償として、またどういふ手段でそれを手に入れたのか――それはどうしても思ひ出すことが出来なかつた。
二つの金袋を見ると、コールジュの心は折れた。『ほんにペトゥルーシャはなんちふ変物ぢやらう! おらがあれに目をかけてやらなかつたとでもいふのかい? うちぢや、あれを親身の息子のやうにしとつたでねえか!』などと、老人はまるで歯の浮くやうな出放題をならべ立てたものぢや。ピドールカは、弟のイワーシが通りすがりのジプシイにかどはかされたことを話したがペトゥローはイワーシの顔を思ひだすことさへ出来なかつた。そんなにまで呪はしい化生の物のためにたぶらかされてゐたのぢや。もう何も躊躇することはなかつた。波蘭人には体のいい肘鉄砲を喰はせておいて、さつそく婚礼の支度がととのへられた。白い婚礼麺麭が焼かれたり、布巾《ふきん》や手巾《ハンカチ》がしこたま縫はれたりして、焼酎の樽がころがし出されると、新郎新婦は並んで卓子につき、大きな婚礼麺麭が切られた。四絃琴《バンドゥーラ》や鐃※[#「金+拔のつくり」、第3水準1−93−6]《シンバル》、笛や八絃琴《コーブザ》の楽の音がとどろきわたつて――歓楽がつづいた…
前へ
次へ
全46ページ中31ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ゴーゴリ ニコライ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング