の花をひつたくると、身をかがめて長いあひだそれに怪しげな水をふりかけながら、何か口のなかで呪文を呟やいてゐた。その口からは火花が飛び、唇にはぶくぶくと泡が吹きだした。『投げな!』と、老婆は花を彼に返しながら、言つた。ペトゥローがそれを投げた。と、なんと不思議なこともあるもので、花はまつすぐに地面へは落ちないで、しばらくのあひだ、闇のなかにまるで火の球のやうに浮いたまま、小舟かなんぞのやうに空中を漂つてゐたが、やがて少しづつ低くなつて、最後にかなり遠くの方へ落ちたので、それは罌粟粒よりも小さい星のやうに、やうやくそれと見分けられるくらゐであつた。『あすこだよ!』さう、うつろな嗄がれ声で老婆がいふと、バサウリュークは犂《すき》を渡しながら、『あすこを掘るのぢや、ペトゥロー、あすこにやあな、お主やコールジュが夢にも見たことのないやうな黄金《かね》がたんまり埋まつてをるのぢや。』と告げた。ペトゥローは手に唾をして犂をとると、それをぐつと土へ踏みこんでは掘りおこし、踏みこんでは掘りかへし、何度も何度も繰りかへした……。と、何か固いものに触つた!……犂がカチつと音を立てて、もうそれ以上は通らぬ。そ
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