珍らしい、つひぞ見たこともないやうな花で一杯になつた。だが、蕨はまだ、ただの葉つぱだけぢやつた。ペトゥローは肚のなかで少し怪しみながら両の手を腰につがへたまま、その前に立ちつくした。
※[#始め二重括弧、1−2−54]こんなものあ、別に珍らしくもなんともないぢやないか? 一日に十ぺんだつてこんな草なら見てゐらあな、何が不思議なもんか? あの悪魔づらめが、ひとを嘲弄《からか》ひくさるのぢやないかしらん?※[#終わり二重括弧、1−2−55]
 ところが、見てゐると――小さな花の蕾が一つ、だんだん赤らんで来るではないか――さながら生きもののやうに蠢めきながら。まつたくこれは不思議だ! 蠢めきながら見る見る大きくなつて、まるで燠《おき》のやうに赤くなつた。そして小さい星がきらめくやうに火花が散つたかと思ふと何かパチつと音がした――と、彼の眼前には一輪の花がぱつと開いて、さながら火のやうにぐるりの花々を照らしてゐるのだ。
※[#始め二重括弧、1−2−54]さあ、今だ!※[#終わり二重括弧、1−2−55]さう思つて、ペトゥローは片手をのばした。見れば、彼のうしろからも、やはりその花をめがけて何百と
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