まれても分らないやうな真の闇だ。二人は手に手をとつて、じめじめした沼地をば、深々と生ひはびこつた荊棘《いばら》にひつ掻かれたり、殆んど一足ごとにつまづいたりしながら、前へ前へと進んで行つた。すると、やがてのことに平らなところへ出た。ペトゥローはあたりを見まはしたが、まだ一度も来た覚えのないところだつた。そこまで来るとバサウリュークは立ちどまつた。
「お主の眼の前に三つの丘があるぢやらうが? この三つの丘にいろんな草の花が咲くのぢや。だが、お主がそれを一つでも折り取るのは禁物ぢやぞ。ただ蕨に花が咲いたら、すぐさまそれを掴むのぢや、そしてお主のうしろでたとへどんなことが起らうとも、振りかへつてはならんのぢやぞ。」
ペトゥローは何か訊ねようと思つたが……見れば――バサウリュークの姿はもうそこには無かつた。彼は三つの丘の傍へ近よつた。いつたいどこに花があるのだらう? なんにも眼には見えぬ。野草があたり一面に黒々と生ひ繁つて、まるであたりを塞いでしまつてゐるばかりだ。ところが、やがてのことに天の一角で、ピカリと一つ稲妻が閃めいた。と、そのとたんに、彼の眼前には一面の花畠が現出して、どれもこれも
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