ことは、いつかお話したこともあるし、当人のものした或る小説は諸君もすでに一読されたことだらう――とにかく、やつて来るなり、この先生、小さな本を一冊だして、その中ほどを開いてわれわれに示したものぢや。フォマ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチはやをら眼鏡を引きよせて、鼻へ掛けようとしたが、それに糸を巻きつけて蝋で固めておくことをつい忘れてゐたのに気がつくと、その本をわたしの方へさし出したのぢや。わたしは、これでもまあどうにか読み書きも出来るし、眼鏡をかけるにも及ばないので、さつそくそれを受けとつて読みにかかつたといふ訳さ。ところが、ものの二枚とははぐらないのに、あの人はいきなり、わたしの手を押へておしとどめたものぢや。
「ちよつと待つて下され! まづ初めに、いつたい何をお読みになるのか、それを一つ伺つておきたいものぢやて。」
正直なところ、そんなことを訊かれてわたしは少々あつけに取られた。
「何を読むですつて、フォマ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ッチ? あなたのお話ですよ、あなたが御自身でなすつた物語ぢやありませんか。」
「いつたい誰がそんなも
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