ーの項《うなじ》をがんと一つ喰らはせた。ペトゥルーシャはくらくらつと目が眩んで、その場へばつたり倒れてしまつた。とんだ接吻をして退けたものぢや! 恋人同士は切ない悲哀に胸とざされてしまつた。ところがコールジュの許へはさる波蘭人で、ぴんと口髭を生やして、金絲で刺繍《ぬひ》をした衣服を身にまとひ、長剣《サーベル》をつり、拍車をつけた男が、まるで寺男のタラースが毎日、会堂のなかを持ちまはる喜捨袋みたいに、衣嚢《かくし》をジャラジャラいはせながら、足しげく通ひだしたといふ噂さが、専ら村ぢゆうの評判になつた。けだし小意気な娘をもつ父親のところへ、しげしげと出入をする手合の下心は見えすいてゐる。さて或る日のこと、ピドールカは涙にかきくれながら、両の腕に弟のイワーシを抱きしめて、かう言つたのぢや。『可愛いあたしのイワーシや! 好い子だからね、大急ぎでペトゥルーシャのところまで一と走り行つて来ておくれでないか。そしてあのひとにさう言つておくれ。あたし、あのひとの鳶いろのお眼《めめ》が恋しくて、あのひとの白いお顔が接吻したいのだけれど、でも前の世からの因縁でそれも叶はないのだつてね。あついあつい涙で、ぐ
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