うした贈物を手にしながら、うすうす怪訝《けげん》に思ふのぢやつた――ひよつとこれは悪魔の手から出た代物ではないかしらとな。わしの祖父《ぢぢい》の親身の叔母が、そのころ今のオポシュニャンスカヤ街道で居酒屋をやつてゐたが、そこでよく、このバサウリューク(その魔性の男は、さういふ名前でとほつてゐた)が散財をしたさうで、叔母の話したことには、この世にある限りのどんな幸福《しあはせ》と引換でも、この男から贈物などもらふのは真平御免だつたといふのぢや。だが、さうかといつて受け取らんわけにもゆかぬ――その男が針のやうな眉毛をしかめて、見るからに足のすくみさうな眼つきで額越しに睨まへると、誰だつてぞうつとして怯気《おぢけ》を震つてしまつたものぢや。ところがまた、それを受けとらうものなら、次ぎの晩には頭に角のある、そいつの仲間が沼地からお客に押しかけて来るのぢや。そして、頸飾を掛けてをれば頸をしめる、指輪をはめてをれば指に喰ひつく、リボンを結んでをれば編髪《くみがみ》をひつぱるといふ始末でな。さうなつた暁には、それこそ、かうした贈物は誠にもつて迷惑千万なのぢや! しかも災難なことには――それを振りすてる
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