かくいふ蜜蜂飼ルードゥイ・パニコーのところの夜会で語られたやうな珍談奇話に至つては、先づほかでは聞けないぢやらう。時にどうして部落《むら》の連中がこのわたしに※[#始め二重括弧、1−2−54]|赤毛の旦那《ルードゥイ・パニコー》※[#終わり二重括弧、1−2−55]などといふ渾名をつけたものか――頓とどうも合点がいかん。わたしは、髪の毛だつて今では赤毛どころか白髪の筈ぢや。しかしわれわれの仲間では、いつたん渾名をつけられたが最後、泣いても笑つても、それが未来永劫に亘つて用ゐられるのがならはしなんでな。それはさて、よく祭礼の前夜などに、堅気な人たちがこの蜜蜂飼の荒《あば》ら家《や》へお客にやつて来て、卓をかこんで席につく――さうなつたら、ただもう耳を澄まして聴き入るよりほかはないて。それもその筈で、集まつて来る人々はといへば、どうしてどうして、そんじよそこいらの十把ひとからげの水呑百姓などではなく、この蜜蜂飼などよりぐんと身分の高い人々にさへ、訪問を受けるのが肩身の広いやうなお歴々ばかりなのぢや。早い話が、あのディカーニカ寺院の役僧、フォマ・グリゴーリエ※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83
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