思い切り飲みましょうか?』
H――氏は煙管の煙にむせ返りながら泪ぐんて頷いた。
『有難う。――だが、ちょっと待って下さい。僕は、これから行って、その指輪を彼奴の顔へ敲きつけてやりたいのです。』
『併し、ロマンティストとして、それはあまり……』
『いやいや、僕は生え抜きのロマンティストですから。』
『ごもっとも、では、そう云うことになさるのもよろしいでしょう。』
H――氏は、私から指輪を受け取ると、「星の花」を詰問に出かけたが、どうしたものか、それっきり翌日迄戻らなかった。
次の日、私がH――氏の部屋を訪れた時、H――氏は机の上で手提金庫を開いて、幾十枚かの手の切れそうな紙幣を数えていたが、私の顔を見ると急いで蓋を閉めた。そして、非常に機嫌のいい声でこう云うのであった。
『――昨日は、どうも飛んだ思い違いだったのですよ。「星の花」に事情を質してみたところが、彼女は僕から先に買って貰った命よりも大切な指環を烏渡した不注意から失してしまって、可哀相に自殺しようとまで思いつめたんだそうです。併し、恰度、そこに君と云うロマンティストが近寄って来たので――彼女は女に似合わず、非常に良くロマン
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