ティストを理解しているのです――つまり、君の厭味のない親切を信じて、つい頼る気になったのですね。それで……』
『ロマンティストの友情にかけて――』と私は、おそるおそる切り出した。『私は、ロマンティストの生活を長く暮しすぎたために破産してしまいました。もう今日のお米がありません。夜逃げの旅費をほんの少し貸して下さい。』
『お金※[#疑問符感嘆符、1−8−77]――』H――氏は金庫の蓋に手を置いたまま愁しげに首を振った。『一文もないのですよ。この金庫に入っているのは、みんな贋造紙幣です。いいえ、全く偽せ物に違いないのです。ロマンティストは、金の工面に奔走したり、友情を強要したりすることよりも、自分一人で牢屋に入った方が、ずっとロマンティックだと思いますからね。そうではありませんか。……』
そこで、私は、身体組織に変化を生じない限り、ロマンティストとしてあらゆる努力が空しいことを知った。
底本:「アンドロギュノスの裔」薔薇十字社
1970(昭和45)年9月1日初版発行
初出:「新青年」博文館
1929(昭和4)年11月
入力:森下祐行
校正:もりみつじゅんじ、土屋隆
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