も廻って、大いに飲んで飲んで、飲みつぶれて、あのローマの意気な貴族ペトロニューの様にドラマティックな最期を遂げたいと思っていますよ。はッはッはッはッ。』
 と、清水はひどく愉快相に哄笑ってみせたのである。
『いや、ところが、お気の毒ですがそれも叶いますまいよ。』
『え※[#疑問符感嘆符、1−8−77] 何と仰言る?……』
『つまり、君の死はもう、思いのほか間近に的確に迫って来ていたと云うことですよ。』
 西村は落ちつきはらった調子で静かにこう云った。
『?……』清水は流石に狼狽してあたりを見まわした。
『その証拠は――』西村はそう云いながら、立って部屋の一隅に置かれた典雅な書棚の抽斗を開けて、しばらくゴソゴソやっていたが、※[#「身+応」、42−5]て、ひとふりの抜き身の支那型の短剣を取り出して来た。
『これですよ……』
『おお※[#感嘆符二つ、1−8−75]』清水は突き出されたその短剣の※[#「木+覊」の「馬」に代えて「月」、第4水準2−15−85]《つか》に目をやると、うめいた。其処には白く、菊花を彫った象牙の飾りが嵌められていたのである……
 いきなり、清水は椅子を蹴たおして窓口
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