にかけよった。が、そこを追いすがって後から苦もなく羽交いに抱きかかえると、ズブリ、ひとつ胸元を刳ぐっておいて、さて、西村敬吉は心持青ざめた顔に薄笑いを浮かべて云った。
『清水君。どうも仕方がない。これは我々「不正を悪くむ紳士方」の集まりである象牙菊花倶楽部の正当なる報酬なのだからねえ。もちろん、君が麻雀で大負けをして金に窮した結果、我が善良なる僕胡を欺いて君の宿に呼び寄せて惨殺し、そして彼の持っていた鍵を奪って倶楽部の象牙の牌を盗み出した、と云う事実に対してさ。君をうまく比の室に追い込んでくれた坊城は云うまでもなく僕と同様倶楽部員の一人だ。だから撮影場のピストルに悪戯をしておいたのは無論彼だろうね。わかったかい……併し、流石の僕も君には感心させられたよ。先ず、おそろしく覚悟のいい事にね。それから、そんなに覚悟がよくていながら、おそろしくどっさり嘘を並べること――ひょっとすると僕までが、うっかりオヤ! こいつァ一体何処から何処までが本当で、何処から何処までが嘘なのかしら――と、一寸けじめがつき兼ねた程の巧みな嘘を、さまざまと小説的才能を以て並べたてることだ。お蔭さまで、ずいぶんと面白い物
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