象牙の牌
渡辺温
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)映写幕《スクリイン》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)毎日終日|船室《ケビン》の中に
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]む
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)生き/\として
−−
『…………』
西村敬吉はひどくドギマギとして、彼の前に立った様子のいい陽気な客の顔を眺め返した。西村敬吉はつい一週間程前にこの××ビルディングの四階に開業したばかりの若い弁護士である。そして彼の前に立った様子のいい陽気な客は彼の開業以来最初の依頼人であった。
室内には明るく秋の陽ざしが流れていて、一千九百――年の九月末の或る美しく晴れた日の午後の話である。
『僕は活動役者の清水茂です。』と、客は正にそんな風な職業らしい愛想のいい微笑や言葉つきで挨拶した。『あんまり有名な方じゃありませんか
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