ら多分御存知ないでしょうけれど――イヤ、でも僕は坊城君とは非常に親密な間柄なんだから、清水って名前位は坊城君からお聞き及びになっていらっしゃるかも知れませんねえ。今日こうして伺ったのも、じつは坊城君にすすめられたからなのです。』
『おお、清水君でしたか。どうも何処かでお目に掛った事がある様に思われましたが、はッはッはッは。』
 左様、西村は彼の古い友である△△映画協会の美術監督をしている坊城の口から幾度となく清水の話は聞かされてもいたのだが、西村自身も相当にそんな方面の趣味を持っていたので、しばしば映写幕《スクリイン》の上では清水の本物の数十倍も大きい顔に接して、よく見知っていた。しかも大ていの場合主役を演《つと》めていた清水は、決して彼自身が謙遜して言う程有名でない役者ではなかったのだから……
『坊城君が大変熱心にあなたをおすすめしてくれたものでしたから――それに僕にしたって並の依頼事件とは少し違うんだしなるべくならやっぱり気心のよく知れた方がいいと思いまして……』と言って清水はふと暗い眼つきをした。
『オヤオヤ、では離婚訴訟じゃァなかったのですね。僕ァまたてっきりそうだと思ったんで
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