に殺されてしまった……云わば今の君には全く何の係り合いがないも同然だ。それを承知しながら君の命を取ろうって云うのなら、なんぼなんでもあんまり残酷すぎるじゃありませんか――少くとも、君の仰言られた、「不正を悪くむ紳士方」にはふさわしくない遣り口ですよ……清水君、君は何か他に、僕には打ち明けなかったことで、あくまでも倶楽部の奴等から仇をされる様な覚えはないのですか。』
と、西村は名探偵の鋭い口調で、さぐりを入れる様に云った。
『ありません。』清水はきっぱりと云った。
『ありませんねえ。あなたに打ち明けないって――どうせ今夜中には殺されると覚悟した僕です。何でくだらない隠し立てなんか致しましょう。』
『そうですか――なる程、そう云えばそうですね。』西村の眼には深くあわれみの色が満ちた。『では、お気の毒ながらやっぱり遺言状をお作りしてあげなけりゃなりますまい……僕にはどうも、それ以上、お力になる事は出来ません。相手は象牙菊花倶楽部ですもの。どうしたって――左様、金輪際君の命は助かりませんね。』
『あなたもやはりそうお思いになりますか。今更どうも仕方がありません。これからひとつ、G――通りにで
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