し、僕はその外にも、約その二十倍位の現金を――麻雀で儲けた金を持っていたので、とにかくあっ晴れ一っぱしの海外成功者の様な気になって、一年振りかで再び懐しい東京へ戻って来たのでした……』
 と、ながながと物語って来た清水は、ここでしばらく語を切るとさて、ひとつ重い溜息をもらしたのである。
『それで、君はそこでもその郁と云う支那人がつまり、君からサムライの衣裳を貰ったばっかりに君の身代りに立ったと云うのですね。だが、それではまたどんな理由で何人に、君は命をつけねらわれなければならなかったのです? 未だその点、その最も肝心な点は一向はっきりとしていない様ですけれど……』と西村は亢奮のためか、頬を少し上気させながらもどかし相に訊ねた。
『どんな理由って、あなた。それは勿論、象牙の牌の祟りですよ[#「祟りですよ」は底本では「崇りですよ」]。』
『象牙の牌?……』
『そうです。だから先刻僕は、麻雀に僕の命を賭けてしまったと申し上げたじゃありませんか。その象牙の牌は、今になって考えてみると、それを僕にくれた胡のものではなかったのでした。彼はそれを倶楽部から盗んで僕にくれたのです。そしてそれは倶楽部に
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