とっては、非常に貴重な品物であったに違いないのです――例えば、むろん牌その物も甚だ高価な得がたい品には違いないのだが、それよりもその裏面に刻まれてあった象形文字が何かの重大な秘密文であったかも知れない様な――で若し左様であったとしたらば、それを持ち出した僕に倶楽部から死刑の宣告が下るのは疑もないことなのです。僕はあの倶楽部が、どの位まで恐しい、どの位まで大きな力を持っているかをあまりによく知りすぎていますからね……胡の哀れな運命を見てもわかるじゃありませんか。』
『いや、清水君! 併しそう君みたいに勝手な因縁ばかり結び付けちまえばたまらない。疑心暗鬼を生ずって奴でね……第一、おかしいじゃないですか。若し君の云う通りだとすると、どうして最初の、「スペエドのジャック」の電話と今度のそれとの間に七年なんて云う長い隔があるのですか。』
『なに、それには不思議はないのです。何故ならば――彼等はつい最近までニューカルトンの舞踏会の夜殺した郁少年を全く僕だと信じて疑わなかったのです。そのために、僕は七年の間日本で安穏な日を送ることが出来たのでした。が、決して悪魔の奴は僕を見捨てていはしなかったのです
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