たのを、気がついていながらワザといいことにして、出掛け迄黙っていたらしいことは確かだ。
疑ってみれば、疑える節々が思い当らないでもなかったのです。直ぐ会社へ電話で問い合せてみようかとも考えたのですが、夫の勤め先が休みか否か解らないでいるなんて、そんな恥しい、可哀相な女房になるのは、自尊心が許さなかったので止すことにしました。
エミ子はしょんぼりと、茶の間に坐って考え込んでいましたが、やがて帯の間に挾んだ手を抜いて、思いついたように夫の置いて行った折鞄を開けて、中味を仔細に点検してみました。昨日の夕刊が二枚と、『探偵小説全集』が一冊と、『南京鼠の合理的長命法』と云うパンフレットと、古い帝国ホテル舞踏会の案内状が一枚出て来たばかりでした。
エミ子は、それから、文太郎君が昨日迄着ていた冬外套を持ち出して、ポケットをすっかり裏返して見ました。
ところが、胸のポケットから、手巾《ハンカチ》と一緒に小さな紙片のまるめたのが飛び出して来たので、その皺をのばして見ると、それは会社の便※[#「竹かんむり/銭のつくり」、第4水準2−83−40]紙で、何と次のような片仮名が、電報みたいに並んでいるの
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