でした。
エノシマヘフタリッキリデデカケルノイヤ? フジサンヤウミガミエルアイビキ!
『江の島へ二人っきりで出かけるの厭? 富士山や海が見える媾曳――だって。まあ! あきれた。何て図う/\しい……』エミ子は蒼くなって、泪をポロポロ滾して口惜しがりました。まことに無理もない次第です。何も浮気をするにことを欠いて、江の島へ行かなくとも!エミ子は、どんな男刈《ガルソンス》にした奥さんにだって負をとらない位、近代夫婦生活の新様式を理解しているつもりだったのですが、それだから尚更のこと堪え難い侮辱でした。
と云うのは、実は一昨日の日曜に彼女は文太郎君に向って、
『春の海辺を歩き度いわ。靴も沓下《ストッキング》もぬいで、裸足で砂を踏んで歩くの。楽しかあない?』
『うん。』
『江の島へ連れてってよ。いや?』
『ああ。でも、今日は調べ物があるんでね。その中に、伊豆あたりへ遠出するように心がけようじゃないか。第一江の島なんて、弁天さまに対してだって、今更気恥しくって歩けやしない。フロリダとでも云うんならいいがね。』
『日曜のダンスホールなんてご免よ。あたし、海の風に吹かれ度いの。』
『誰がダンスホー
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