精いっぱい泣き度い程の気持で、家へ帰ってみると、さて文太郎君が凡そ上機嫌で彼女を抱きかかえてくれたのです。
『江の島の春はよかったかい?』
『まあ! 知らないわ……』エミ子は夫の腕の中で身もだえして泪にむせびました。
『エンミイが江の島へ行き度い/\って、せがむからさ。』
『誤魔化そうとしても駄目々々。あたし、あの便※[#「竹かんむり/銭のつくり」、第4水準2−83−40]の文句を読んだのよ。』
『エノシマヲフタリッキリサンポスルノイヤ? フジサンヤウミノミエルアイビキ!……五字ずつ飛ばして読んでごらん。エから五字目がフ[#「フ」に傍点]、フ[#「フ」に傍点]から五番目がリ[#「リ」に傍点]……ルそれからフ[#「フ」に傍点]、ウ[#「ウ」に傍点]、ル[#「ル」に傍点]……四月馬鹿さ。はっはっはっ……』
『あら!……』
『僕が今日何処にいたかってことは、エンミイの大嫌いな南京鼠協会へ問い合せれば直き解かるよ。実は、僕がエンミイに内証で手がけた南京鼠が迚も素晴しい新種の子供を生んで、それが首尾よく仏蘭西へ輸出する見本として通過したので、今日は大祝賀会が開かれ、僕は、その上、巴里のシュバリエ
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