顔をしました。
『え? 誰かそんな噂でもしたの?』
『ううん……どうだっていいことなんだよ。』
『いいこたあないわ。はっきり仰有い。……云わないの? じゃあ、もう聞かないわ。』
『困ったなあ。実は一週間ばかり前に、文太郎さんと銀座で会って、一緒に富士屋でお茶を飲んでいたら、恰度其処へ来合せたお友達らしい人へ文太郎さんが、これは未だ内証なんだがね。今度とても素晴しい子供が生まれたよ。四月一日には誕生祝賀会をやるから是非出席してくれたまえって、云っていたんです……それで、「赤ちゃんが生まれたんですか?」って僕が聞くと、黙ってニヤニヤ笑っていたけど……だから。』
『あんた! あたしの子だと思ったの?』
『ええ。だから、エミちゃんから電話をかけられた時には吃驚したんだけど、でも、僕なんかに解らないことがあるかも知れないし、僕は何だか、エミちゃんが可哀相になっちゃって』
『大きなお世話よ。――あたし、もう帰るわ。左様なら。』
エミ子は、呆気にとられている雄吉君を置いてサッサと食堂を飛び出しました。
ところが――エミ子が、文太郎君の怪しい所業の数々に身も世もなく心細くなって、誰もいないところで
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