落ちた時に、はじめて解ることだわ。』その時だった。彼女は思いがけもなく二人の貴婦人と共に馬車を駆って過ぎるドリアン・グレイの金髪と笑いかけた唇とを見つけた。
『ああ、あすこにプリンス・チャーミングが!』
 と彼女はとび上った。
『何処に?』とジムはびっくりした。『どれ、どの人だ。見覚えて置かなければならない。』併し、馬車は早くも雑踏の中に疾り去った。『残念なことをした。――僕はそいつが姉さんに悪いことでもしようものなら必ず生かしちゃ置かないつもりなのだから。僕はどんなにしてもそいつを探し出して犬のように刺し殺してやるぞ!』ジムはそう云いながら幾度も短剣をつき刺すような恰好をしてみせた。

 7

 ヘンリイ卿とハルワアドは、ドリアン・グレイからシビル・ヴェンとの恋を打ち明けられて少からずおどろいた。
 それで二人は一夜、ドリアンに案内されてその裏町の見窶しい劇場へ見物に出かけた。その晩はどうしたものか満員で、暑さのために上衣も胴衣も脱いだ見物人たちが劇場を縦横に呼び交し合っていた。また酒場《バア》の方からはさかんにコルクを抜く音が聞こえて来た。
『女神もいいが、これはまあ、とんだ所では
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