。彼女はドリアンが彼女の芸を称讃するのをばただ不思議そうに眼を瞠って聞いていた。彼女のその様子には自分の力量を意識しているようなところが少しも見えなかった。彼女はおずおずとドリアンに云った。
『あなたは王子さまのようでいらっしゃいますのね。これからプリンス・チャーミングと呼ばせて頂きますわ。』
彼女もまたそんな職業や生活ではあったが、人生については全く無智な子供に過ぎなかった。
6
シビルはメルボルーンへ向けて航海しようとしている弟のジェームスと共に明るい日ざしの中をユーストン通りの方へ歩いていた。
『その人は、プリンス・チャーミングって云うの。ねえ、随分すてきな名前じゃなくって? お前だって一目その人を見たなら屹度その人が世界中で一番立派な人だと思えるに違いないわよ。誰でも、みんなその人を好きだし、それにあたし……あたしその人を愛しているの。ねえ、ジム、恋をしながらジュリエットの役をするなんて、なんて幸せなことなんだろう。』
『男には、とりわけ紳士と云う奴には気をつけなくちゃいけないよ。』とジェームスは云った。
『ジム、もうあきあきしたわ、そんな事。おっつけお前が誰かと恋に
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