ット』である。
南京豆ばかりを食い散らしている下等な見物人と、おそろしいオーケストラとは、遉《さすが》のドリアンも堪え難かった。が、さて幕が開いてうら若いジュリエットが姿を舞台に現わすに及んでドリアンは思わず歓声を洩した。
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やっと十七八らしいその可憐な花の如き女優は、ドリアン・グレイがこれ迄に見た如何なるものに優って愛らしかった。暗褐色の髪を振り分けに編んだ小さなギリシャ型の頭や、情熱の泉のような菫色をした瞳、それに薔薇の葩《はなびら》の如き唇、ドリアンは泪のために娘の顔が見分け難くなる程感動した。そしてまたその声は、やわらかな笛の音のように、或るいは夜明け前の鴬の唄声のように、やさしく澄んでいるのだった。
ドリアンは、生れてはじめて身も世もない恋慕の思いに胸をかきみだされた。彼女の名前をシビル・ヴェンと云った。
ドリアンはシビル・ヴェンを忘れかねて、それから毎晩、その怪しげな芝居小屋へ通った。
三日目の晩にドリアンは、恰度ロザリンドに扮した彼女へ花を投げた。そしてその幕が済んだ後で、彼は猶太人に導かれて楽屋へ通った。
シビル・ヴェンは未だ初々しい内気な娘であった
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