かけた灯の下で、宵に街から買って来た絹糸でネクタイ編みながら未だ起きていた。
「ごめんよ。さびしかったろう?」
「いいえ……Bさんが鳥渡遊びにいらっしったわ。」
「Bが?」
「怖そうな人ね。それに、まるでだんまりやよ。」
「うん。あれでなかなか気の好いところもあるんだがね。僕たちのことを何も云ってやしなかったかい?」
「別に、でも、一言二言皮肉みたいなことを云ったわ。」
「何て?」
「あなた、気を悪くするかも知れないの。」
「何て云ったい?」
細君は、編みかけの赤とオリイヴ色とが交ったネクタイをいじりながら返事をしなかった。
「ねえ、本当に何て云ったんだ?」Aは、飲みかけの紅茶をさし置いて追及した。
「あのね、こんなネクタイを編ませたりするAの気が知れない。こんなものは、街へ行けばもっと安く、手軽に買えるじゃありませんか、って。」
Aは苦笑した。
「フム、学校で生物学の講義でもしていると、どんなことでもそんな風にしか考えられなくなるんだよ。……自分の細君のことは何とも云わなかったかい?」
「――いない方が、邪魔にならなくていいんですって。それに、僕の女房は僕に、A君が気に入っている
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