花嫁の訂正
――夫婦哲学――
渡辺温

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)報告《おしえ》るのであった。

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)あたしたちのことを※[#疑問符感嘆符、1−8−77]
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 1

 二組の新婚夫婦があった。夫同士は古い知己で隣合って新居を持った。二軒の家は、間取りも、壁の色も、窓も、煙突も、ポオチもすっかり同じで、境の花園などは仕切りがなく共通になっている。
 一週間経つと花嫁と花嫁とも交際をはじめた。
「――お隣の奥さん、今日も一日遊んでいらしたのよ。」
 そうAの細君が、勤めから退けて来たAに報告《おしえ》るのであった。
「二人で、どんな話をして遊ぶんだい?」
「あの方、それぁ明けっぴろげで何でも云うの。あたし、幾度も返事が出来なくて困ったわ。」
「たとえば?」
「あのね。……あなたの御主人は、朝お出かけの時、今日はどのネクタイにしようかって、あなたにおききになる? なんて訊くの。」
「返事に困る程でもないじゃないか。」

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