のだし、A君とならよく似合うから恰度いいだろうって仰有ったわ。」
「下らない! 変な冗談を気にかけちゃいけないよ。僕はBの細君なんかと一緒に行ったって、ちっとも楽しくなんかなかった。本当に、悪かったら、勘弁しておくれ。」
Aは細君をやさしく抱いた、すると彼女は身をかたくした。
「なぜ、そんな風に仰有るの?」
「莫迦! 泣く奴があるもんか」
「だって、あなたが、そんなことを仰有るからよ……」
「これから、決してお前ひとり置いて行ったりなどしないよ。……いい子だ、いい子だ。」
Aは細君の泪に接吻してやった。
2
併し、Aと、B夫人との間はそれから加速度的に接近して行った。
夫の仕事の邪魔になるからとか、学校の研究会で帰りが遅くなって、一人でいるのは淋しいとか、いろいろな口実のもとに、Bの細君はAの家に入り浸った。
一度なぞは、Aの役所の退け時に、さも偶然らしく役所の前を通りかかって、一緒に散歩してお茶を飲んだり、自動車に乗ったりして帰って来た。尤も、その時はAも表面で全く成心なさそうに振舞ったが、併し家へ帰ると、二人ともそのことを内秘にしていた。
またBの細君はタンゴ・ダ
前へ
次へ
全19ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
渡辺 温 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング