」は底本では「悔り難い」]強大な意志に圧迫されるのでしょうな。……」
Aは、それを聞いて苦笑いをしたが、直ぐに歯をギリギリ音を立てて噛み鳴らした。
やけた砂の上に足を投げ出しながら、Bは自分の細君に何気ない調子で訊ねた。
「Aに、例のことを話したのかね?」
「ええ――」Bの細君は思わず頬を硬ばらせた。
「ふむ――」
BはそこでAの方を振り向いて云った。
「A。君とはあんまり泳いだことがないが、どの位泳げるんだ?」
「そうだな。子供の時分なら相当泳げた方だが、併しそれも大てい河ばかりで泳いだものだ。」
「それなら確だ。どうだ、一つ遠くへ出て見ようじゃないか?」
「うむ。――」
Aが応じて立ち上がりかけると、その途端にAの細君の足がAの目の前に延びた。Aは彼女の白い足裏に、焚火の残りの消炭か何かで黒く、(アブナイ!)と書かれてあるのを認めた。だが、彼は躊躇してはいなかった。
二人は肩をそろえて沫を切りながら、沖を目がけて泳いだ。やがて安全区域の赤い小旗の線を越した。沖の方の水は蒼黒く小さい紆りを立てていて、水温も途中から俄かに変って肌がピリピリする程だった。Bは脇目もふらずに無表
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