したのなら、平気でそれを受けて見せます。」
「――あたしたちは、お互に、未だ結婚してから一月と経たないのよ。それだのに!……なぜ、神さまは、最初にあたしとあなたとを会わせて下さらなかったのでしょう。……」
 二人は抱き合って、今更ながら余りに理不尽と思える運命のからくりを嘆いた。それから昔のけなげな恋の受難者たちのように、最後迄勇気を失さぬことを誓い合って、砂丘を降りた。
 朝食が済んだ後で、霧がはれて、海がギラギラ青い鋼鉄《はがね》色に煌きはじめると、二組の夫婦はそろって海水浴に出かけた。
 Bは何事も云い出しそうな素振りを見せなかった。むしろ、皆の中で一番気楽そうに振舞った。それでも、他の誰とよりも、やはりAの細君と口数多く喋った。
「Bさん、お家にいらしても、こんなにお元気? Aをごらんなさい。どうしたわけか、あんなに悄げています。まるであべこべね……」
 そう云ってAの細君が笑った。
「Aは屹度海が怖いのでしょうよ。」とBが答えるのであった。
「尤も、僕なんかでも、ひどく自然の姿に恐怖を感ずることがありますがね。人間の卑屈な知恵や小力が、どう悪あがきしても侮り難い[#「侮り難い
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