縞の衣裳を着ていた。姉の紅で濃く染めた顔はたえ難く愁しく私の心臓をひき裂いてしまった。
――どうです、綺麗な花ですか?」
にやけた山高帽をかぶった不良少年が、私の肩を敲いて通り過ぎた、私は我を忘れて、コツコツと扉を打った。
姉は耳敏くそれを聞きつけると、私の覗いている扉の穴へ向ってニッと笑って見せた。私は周章て、廊下の端《はず》れまで走って、そこのうすくらがりの中へうずくまった。
姉は扉をあけて首をさしのべた。それから玄関へ上る階段のところまで行ってみたが、彼女のお客の姿は何処にも見当らなかったので、落瞻《がっかり》したらしい様子で肩をすぼめて部屋の中へ引き込んで行った。私はそこで再び取って返すともう一度丸穴から覗き込みながらコツコツと扉を敲いた。
姉はやはりいそいそと身を起した。
私は前の時のように廊下の隅っこで、姉の出て来るのを待った。姉は扉から首を出して見て、それからまた階段の方へ歩いて行った。私はその隙に素早く部屋の中へ飛び込んで、寝台の下へもぐった。
二度も誑かされた姉は、溜息を吐きながら戻って来た。私の眼の前に姉の痩せ細った脚がぶら下った。私はあらん限りの勇気
前へ
次へ
全17ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
渡辺 温 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング