可哀相な姉
渡辺温

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)訝《あやし》んだ

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   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+寿」、第4水準2−89−30]躇なく
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 1

 すたれた場末の、たった一間しかない狭い家に、私と姉とは住んでいた。ほかに誰もいなかった。私は姉と二人きりで、何年か前に、青い穏やかな海峡を渡って、この街へ来たのであった。
 そして姉が働いて私を育ててくれた。
 姉は、断っておくが、ほんとうの私の姉ではない。姉の母は、私の従姉である。私の父は姪に姉を生ませた。しかも姉は生まれ落ちてみると唖娘であった。
 だが、もう私達の父も、姉の母も、私の母もみんな死んでしまって、今はふるさとの海辺の丘に並んだ白い石であった。
 唖娘の姉と二人で久しい間暮していて、私達と往来する人はこの街に一人もいなかったし、私は一日中つんぼのように、誰の声をも聞かなかった。
 姉がどんなに私をいつくしんでくれたか! 姉は毎晩々々夜更けてから、血の気のない程に
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