らせました。その時、若しこれがうまくゆけば、葛飾の愛を取り返せるかも知れない――また万一他殺と露見するようなことがあっても、疑われるのは結局葛飾だとも考えました。
『あの黒いリボンのネクタイのことは偽でございます。私が葛飾の胸からむしりとったのを、そんな風に仕組んだまでに過ぎません……』
葛飾は無実と云うことになって放免された。
8
さて話はこれでおしまいであるが――
作者はここで小野潤平の死が本当の自殺であった場合を考えてみ度い。
小野は酔っぱらって帰って来ると門口で葛飾と出会ったのでめそめそと泣いて詫びた[#「詫びた」は底本では「詑びた」]。するとそれが却って葛飾の気を悪くして、殴り倒された。
小野は画室に入ってからもだらしなく泣き続けていたに違いない。
卑屈な禀性《うまれつき》や、すたれた才能や、いかさま生活や……いろんな自己嫌悪がむらがって来る。そこで覚束ない酔っぱらいの気持に唆かされて自殺しようかと思う。葛飾の箪笥の抽斗からピストルを出して来ると、悲劇役者のような恰好にそれを顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]にあてがう。はっきりした自殺の意識なぞは要
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