……』
こう云う葛飾の弁明には『偽を申し立てた要心深さ――若しくは、臆病さ』に就いて裁判官を納得させるのに充分なものがなかったらしい。
ピストルに犯人が指紋をのこさなかったのも、その位に要心深い人間であってみれば当然である――と役人は述べた。
そして葛飾は幾年かの懲役を云い渡された。
7
美代子はたった一人取りのこされて、その広い淋し過ぎる家で、蒼ざめた不吉な追憶と一緒に暮さなければならなかった。
葛飾の罪が決定してから一月も経った頃、美代子はやはり画室の中で縊れて死んだ。
今度は――遺書があった。裁判官へ宛ててある。
『……小野潤平を殺したのは私でございます。
あの晩、小野は酔って帰って来まして、私に一緒に逃げてくれと申しました。そして私がそれをはねつけますと、いきなりポケットからピストルを出して、自分の頭を狙ってみせました。私は吃驚してその手に飛びついて、ピストルを※[#「てへん+宛」、第3水準1−84−80]ぎ取ろうとしました。ところが、私はあやまって引金に指をかけてしまったのでございます……』
『私は恐しい人殺しの罪を免れるために、ピストルを小野さんの手に握
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