そっくりでいらっしゃること――』
母親の声は、虚《うつろ》にひびいた。
『お母さん、せいぜい懐かしがって頂だい。』
『そんなに、似ていますかなあ。』
浅原はてれ臭そうに頤の辺を撫で廻した。
『いろいろ娘から伺って居りますが――お父さまはお亡くなりになったのでございますってね。』
『ええ、僕が中学校を出た年――もう九年からになります。アメリカで死にました。』
『おや、アメリカヘ行っていらしたのですか?』
『ええ、この事は、話す必要もないし……あんまり話したくなかったので、智子さんには未だ云わずにいました。』
『お父さんの御苗字は、もとから浅原と仰有いましたか?』
『いいえ、浅原と云うのは僕の母方の姓です。父は松岡と云う家から養子に来たのです。』
『マツオカ?!――』
智子の母親は咽喉をひきつらせた。
『御存知でいらっしゃいますか?……』浅原が吃驚して訊き返した。
『いいえ、いいえ。……それで、あなたも、アメリカでお育ちになったのですか?』
『ええ、生まれたのは彼地《あちら》です。でも、小学校に入る年頃になると直ぐに、母方の祖父の意見で、母と一緒に日本へ呼び戻されて、それからずっと母
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