いたお前が、もうお嫁さんになるなんて、とても本当とは考えられない程だよ。お嫁さんになって、赤ちゃんを生んで……そうすれば、あたしは祖母さんなのかしら――おかしいわねえ。……』
母親は、溜息のように笑った。その平生《ふだん》は、どうかするとひどく子供っぽく澄んで見える瞳に愁しげな影がさしていた。
(長い間、あたしと二人っきりで暮して来たのに、今度あたしの愛情が半分、見も知らない他所の人にとられてしまうので、それでお母さんは淋しがっているのだわ……)
智子は母親の気持がわからなかったわけではないのである。併し、そのために、彼女の新しい正しい愛が、不当に歪められなければならぬ理由は何処にもなかった。
そうして、或る土曜日の夕刻から、智子は初めて浅原を晩餐に招いて、母親とひき合せた。凡そ、浅原ならば、誰の眼にも申し分のない婿と見えていい筈だった。
だが――。
恋人と、やさしい母親とを一緒に並べて、せい一ぱい幸福だった智子は、その母親の憂愁の色が一層深くなっていたのには心づかなかった。
『ねえ、お母さん、お父さんに似ているとお思いにならなくって?』と智子が母親に云った。
『ほんとうに、
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