清らかでした。イワンの兄が娘のその風情に惹きつけられたのは無理もない次第だったのです。
『僕のお嫁さんにならないか?』とイワンの兄は娘に云い寄りました。
『あなた、あたしを愛して下さるの?』娘は薔薇色の紅が褪せてしまった唇をやっと開いてそう訊きました。
『勿論さ。誓ってもいいよ。』
『あたし、それじゃ、あなたのお嫁さんにして頂くわ。』
『明日の晩、結婚式をあげよう。』
そこでイワンの兄はその孤し児の娘を連れて家に帰りました。
4
イワンの兄はふとした拍子で、美しい花嫁を迎えることが出来たから、一方ならず嬉しく思いました。
『イワンや、目をさましなさい。こんな気分のいい朝に寝坊をするなんて不幸の骨頂だよ。早く起きて、そして窓の外を見てごらん。』
イワンの兄は、その朝そう云ってイワンを揺り起しました。
イワンは窓から金色の朝日のいっぱいにさしている庭の景色を眺めました。するとイワンのおどろいたことには、花畑の間を、今迄についぞ見たこともない人形のように可愛らしい娘が、如何にも楽しげに、小踊りしながら歩き廻っているではありませんか。イワンは眼を瞠ったまま訊ねました。
『兄さん。
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