給の中で、一番器量良しの細い眼をした、金髪の少女の頤を指でつついたものだ。
『マルウシャ! 日本人の小説を書く人に惚れています。――マルウシャ、云いなさい!』
 その少女の噂は、私も既に聞いていた。彼女は私に、××氏から貰ったのだと云う手巾《ハンカチ》を見せたりした。
 それから彼女は、アレキサンダー君と組んで踊った。ストーヴの傍にいた家族の者らしい老夫婦が、ヴァイオリンと竪[#「竪」は底本では「堅」、150−6]琴《ハープ》とでそれに和した。私はエビス・ビールが我慢出来なかったので、酒台のところに立って火酒《ウォトカ》を飲んだ。
 若い時分には、可なりの美人だったらしい面影を留めている女主人が、酒をつぎ乍ら私の話相手になってくれた。


 いいよ 君が死ねば僕だって死ぬよ

 私達は予定通り、恰度一時間を費して、インタアナショナルを出た。
 真暗な河岸通りに青い街灯が惨めに凍えて、烈しい海の香りをふくんだ夜風が吹きまくっていた。
 元町ヘ抜けて、バンガロオへ寄って、そこで十二時になるのを待った。アレキサンダー君が、このダンス場の看板時間まで踊り度いと云うので、踊の出来ない私は、ぼんや
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