は、格別可愛がられているらしい。
 ――アレキサンダー君は、露西亜語の他に、拙い日本語と、同じ位拙い英語とを喋ることが出来る。
 桜木町の駅に降りたのが、かれこれ九時時分だったので、私達は、先ず暗い波止場の方を廻って、山下町の支那街へ行った。
 そして、誰でも知っているインタアナショナル酒場《バア》でビールを飲んだ。ここの家はどう云う理由か、エビス・ビールを看板にしているが、私はずっと前に、矢張りその界隈にあるハムブルグ酒場で、大変美味しいピルゼンのビールを飲んだことがあった。
 独逸へ行こうと思っていた頃で、そこの酒場に居合せた軍艦エムデン号の乗組員だったと称する変な独逸人に、ハイデルベルヒの大学へ入る第一の資格は、ビールを四打飲めることだと唆かされて、私はピルズナア・ビールを二打飲んだのであった。
『そのエムデンは店の人です、つまりサクラですね。――』
 と、アレキサンダー君はハムブルクを斥けた。
『それに、あすこには、こんな別嬪さん一人もいませんです。つまらないですね。』
 アレキサンダー君は、さう云いながら、私達の卓子《テーブル》を囲んで集まった、各自国籍の異るらしい四五人の女
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